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映画:『蛇にピアス』(原作:金原ひとみ、監督:蜷川幸雄)

 

蛇にピアス [DVD]

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原作を読んだのは、確か中学生の時だったような。

母親が買ってきた文藝春秋に「蹴りたい背中」と一緒に掲載されていました。

2作を一気に読み終えた中学生の私がどこまで内容を理解して、何を思ったのか、気になるところですが、、、全く覚えていません。たぶん、文字を追っていただけ。

 

映画の「蛇にピアス」といえば吉高由里子の濡れ場というイメージが強く、まあそれはその通りだと思うんですが、それでもそのイメージを超えるくらい、彼女の演技と内容に圧倒されてしまいました。

 

19歳、痛みだけがリアルなら 痛みすら私の一部になればいい。

というキャッチコピーにもあるように、「痛み」が中心にある物語。

主人公ルイが生きがいにしているのは肉体的な「痛み」。

何がきっかけで普通のギャルだった彼女が「痛み」を求め、

スプリットタン(舌先が二つに分かれた舌)や入れ墨に

強く惹かれたのかは分からない。

分からないけど、19歳ってちょっとした出来事、

周りからみたら「よくある話」のせいで酷く病んでしまう。

気付いたら数ヶ月前まで予想していなかった自分になっている。

そういう時期だと思う。

 

「痛み」とは肉体的なものだけを意味するのか?

キャッチコピーの前半の痛みは肉体的なもの、

後半の痛みは精神的なものを指すのは明らか。

でもルイが求めていたのは肉体的な痛みだけだったのだろうか。

 

ルイはクラブで知り合った彼氏アマ(高良健吾)と

不満はあるものの幸せな生活をする中で、

彫師でアマとも信頼関係があるシバ(井浦新)とも関係を持つ。

サディストのシバはルイが肉体的、そして精神的に

苦しむ姿を見て喜んでいたのではないだろうか。

アマという存在が2人に関係を保っていたものだったのではないだろうか。

アマがルイとシバの関係を心配して涙を流した日、

彼女は浴びるように酒を飲んだと言っている。

自分のしたことが他人を苦しめることを知ったルイは

痛みへの欲望とアマへの愛情の中で葛藤していたのだと思う。

そして、アマは不慮の死を遂げる。

 

「川」が意味するもの

アマの死から立ち直り、最後にスプリットタンを完成させようとするルイ。

痛みはまだ彼女を少しだけ蝕んでいるし、

アマを残忍なやり方でレイプし、殺したのはシバさんかもしれないと感じ取っている。

結局スプリットタンは完成せず不格好で大きな穴を残した。

水をごくごくと飲みながら、

「私の中に、川ができたの。」

とシバにつぶやくルイ。

 

舌にできた穴を水が通過する様子を、川と捉えたのか。

それとも、もっと別の何かを意味しているのか。

 

アマの死から立ち直ったルイは、それまで目を入れていなかった

入れ墨の龍(アマを表す)と麒麟(シバを表す)に目を入れる。

「(画竜点睛の逸話から)目を入れたら、飛んで行っちゃいそうだから」

と言って目を入れなかったルイが、ここにきて目を入れてほしいと頼む。

 

そして、「シバさんがアマを殺したとしても、もう大丈夫」と言い聞かせる。

 

川は一方向にしか流れない。

そして流れを止めずにすべてを巻き込んで進む。

そんな流れの中に、ルイは身を置いたということではないだろうか。

 

そのあとにシバは嫌な夢を見た、と数人から怒られる夢の内容を話す。

彼もまたひとつの快楽に依存し、そこに生きる意味を見いだす弱い人。

そしてどこかで、自分がしたことの罪にさいなまれているのかもしれない。

 

ルイは最後に横断歩道の真ん中でおなかを抱えてしゃがみこんでしまう。

妊娠を思わせるエンディングだが、 

それでももうルイは痛みに生を求める弱い人間ではないはず。

 

 

見終わったあと率直に思ったことは、

蜷川実花監督の『ヘルター・スケルター』に似てるなー」

ということ。

 

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認められたい、という気持ちから何かに依存するという点は同じではないでしょうか。

でもどちらとも最後に女性は前を向いて歩いています。

少なくとも私はそう思いました。

女ってやっぱり強い。

眩暈がするような後味の中でそう感じました。

 

誰だって社会には不満をもっているし、

その中で埋もれて行くことに不安を感じている。

だから自分がいる証、場所、実感がほしい。

そんなこと考えるのは、地球上の生物の中ではきっと人間だけでしょうね。

そしてこれは昔から多くの人の頭を悩ませてきたこと。

 

でも結局答えは自分の足で立つこと。

自分で自分の居場所を認識すること。

他人から与えられるものに依存しないこと。

でも、それでもやっぱり

人は生まれながらにして弱い存在だと、私は思います。